専門は近代イギリスの倫理思想です。大学院の修士課程では、カントの倫理思想を研究していましたが、カントが同時代のイギリスのモラリストたちの議論に関心を寄せていたことから、彼らの著作を読んでみたところ、その議論に魅了され、博士課程では、近代イギリスの倫理思想を研究することにしました。それからずっと、近代イギリスのモラリストたちの議論について研究しています。
最初に研究の対象としたのは、「良心」をめぐるモラリストたちの議論でした。近代イギリス良心論は17世紀に誕生し、18世紀に完成し、19世紀に終焉しました。そこで、議論の興亡を辿り、その理由を探ることにしました。そして、興亡の背景に「利己心(自己愛)」が存在していたことを明らかにし、それを博士論文として纏めました(『良心の興亡:近代イギリス道徳哲学研究』ナカニシヤ出版、2003年)。
続いて研究の対象としたのは、「利己心」をめぐるモラリストたちの議論でした。ですが、研究を始めてすぐに、近代イギリス倫理思想の全体像を知る必要に迫られました。そこで、研究の準備として、「人間の本性」「感情と理性」「幸福と理想」という共通の主題に関する主要なモラリストたちの議論について検討し、その成果を入門書として刊行しました(『イギリスのモラリストたち』研究社、2009年)。
ですが、入門書を書いて判ったのは、利己心の問題が近代イギリス倫理思想の中心的な問題であり、それについて論じるには、通史を書くしかない、ということでした。そこで、近代イギリス倫理思想を「道徳」「人間」「社会」の三つの領域に分け、それぞれの領域におけるモラリストたちの議論の流れを辿り、その成果を概説書として刊行しました(『近代イギリス倫理思想史』ナカニシヤ出版、2020年)。
入門書や概説書を書いたことで、近代イギリス倫理思想の全体像をいくらか明らかにすることはできたと思っています。ですが、肝心の、利己心をめぐるモラリストたちの議論に関する研究は、遅々として進んでいません。理解は深まりましたが、その一方で、謎も深まりました。議論を全体としてどのように捉えるべきか、暗中模索が続いていますが、残りの人生で、何とか研究を纏めたいと思います。
(2022/4/1)