慶應義塾大学大学院文学研究科(修士課程および後期博士課程)には、9つの専攻のもと、16の専門分野――哲学、倫理学、美学美術史、アート・マネジメント(修士課程のみ)、日本史学、東洋史学、西洋史学、民族学考古学、国文学、日本語教育学(修士課程のみ)、中国文学、英米文学、独文学、仏文学、図書館・情報学、情報資源管理(修士課程のみ)――と、分野横断的な西洋中世研究コースがあり、あわせて200名以上の大学院生が日々、研鑽に励んでいます。人文科学のさまざまな学問分野を包摂しつつ、それぞれの分野の研究における高度な専門性を培う研究教育機関として、国内はもちろん、海外においても高く評価されています。
人文科学の探究は、古くから、人間社会の歩みと軌を一にしてきました。時代の推移や社会の変化、また価値観がさまざまに変容する中にあって、人間社会の状況とそのあり方をできる限り具体的に、かつ、できる限りトータルに把握すること――それが、人文科学の魅力であり、使命であり、そして現代社会への重要な貢献であると思います。人間の置かれた状況を正確に、かつ多様な視点から理解することがなければ、社会の進むべき方向は見えてきませんが、そうした状況の正確な把握や多様な視点は、一時的な流行や風潮によって得られるものではありません。現在と過去を往還しつつ未来を構想し、多様な文化のあり方のエッセンスを探究する人文科学研究の営為は、それゆえ、現代の人間社会において貴重な輝きを発し続けているではないかと考えています。
慶應義塾大学大学院文学研究科には、こうした人文科学の探究に資する多くの制度や施設、研究教育体制が備わっています。各分野の第一人者である教員による授業の大半は少人数の演習が中心で、当該分野における高度な専門性を確実に培うことができます。指導教授を中心とした修士論文や博士論文の指導は体系的におこなわれており、質の高い学位論文を完成させて学位(修士、博士)を取得する大学院生は、毎年、あわせて60名ほどに上ります。学内の他の研究科とのデュアルディグリープログラムをはじめ、文学研究科が基盤を置く三田キャンパスにある言語文化研究所、附属研究所斯道文庫、福澤研究センター、アート・センター、日本語・日本文化教育センター、ミュージアム・コモンズなどとの連携による領域横断的な研究を進めることもできます。豊富な和漢洋の貴重書に恵まれ、かつ最新の研究成果を日常的に享受できる多くのデータベースを有した国内屈指のメディアセンター(図書館)も大いに活用してください。また、こうした学びを支える各種の奨学金や研究助成の制度がきわめて充実しているのも重要な特徴と言えるでしょう。文学研究科では海外の大学院への留学や国際学会での発表を推奨しており、研究を効果的に進める上で有効な留学実績を毎年多く残していますが、そうした留学や渡航、海外での調査のための支援制度も充実しています。一般的な奨学金や研究助成に加えて慶應義塾大学独自の支援制度が数多くありますので、ぜひご確認ください。
慶應義塾には、その草創期から、「半学半教」という精神が脈打っています。特に大学院では、学生のみなさんを、教員とともに学ぶ者、大学院生どうしが教え合い、また教員の研究にも大きく資する研究者・教育者として位置づけています。学問研究を志す多くのみなさんとともに、人文科学の研究教育をさらに深く、そして大きく、この文学研究科において展開して行けることを願ってやみません。