私は中国文学専攻に所属し、中国語学に関する授業を担当しています。主に現代中国語の語彙、文法、さらに中国語教育についての学術研究書や論文を読むことにより、この方面の専門知識の獲得と活用を目的とした授業を行なっています。
私の専門分野は現代中国語の語彙論と文法論ですが、近年はとりわけ中国語教育における語彙指導についての研究に取り組んでいます。大学等における中国語教育の場では、どのような語を対象とし、ある学習レベルにおいてどの程度の数を学習するのかといった、所謂「語彙の広さ」について、学習者や教育者の関心が集められています。一方、一つの語が持つ語彙情報をどれだけ深めて知るのかといった、所謂「語彙の深さ」の面に関する学習や指導については、検討の余地が残されている現状が見受けられます。中国語の語(単語)の学習と言えば、学習語彙を単体と見なし、一つ一つ覚えて積み重ねて、量を増やすという意識が固定化されています。「学習対象語―ピンイン(音声)―訳語(意味)」という枠組みでの学習が定着していますが、語にはさらに「語形」「語義」「位相」などの面で、学習に値する様々な語彙情報があります。このような語の構造性や体系性を応用した内容を指導項目に取り入れた新しいスタイルの語彙学習や指導方法の構築に向けての探求を続けています。また、日本語母語話者による中国語の語彙学習は、日本語における漢語語彙の存在から、他の中国語の学習者と比較するとかなり有利であると考えられています。しかし、同じ中国語の語彙でも「同形同義語」は比較的容易に習得ができる一方で、「中日同形近義語」と称される二言語間に僅かな差異しかなく、その相違に学習者が気づきにくいタイプの語は、日本語からの干渉を受けやすく、習得が困難であるという問題があります。このような両言語の関係性に応じた語彙指導や教育実践現場への語彙の導入についても効果的な方法を考案する可能性が残されております。
学習者の語彙学習を中心とした授業用テキストや学習書の作成、日本語母語話者の学習者向けの学習辞書の編成、学習者の語彙能力測定に適した新しいタイプの言語テストの発案などを私自身の具体的な研究目標として定めています。その上で、事例に対する調査、考察といった基礎的な分析を土台にして、「語彙の深さ」の面を重視した日本語母語話者の中国語学習者に対する語彙指導の確立を目的とした研究活動に従事しています。
(2022/4/1)