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研究紹介総合学問としての演劇学独文学専攻平田栄一朗2016/11/30

「世界はこれすべて舞台なり」というシェイクスピアの言に象徴されるように、私たちは日々の生活において俳優・演出家・観客のように振る舞っています。望む望まざるにかかわらず、私たちは演劇的な世界に生きています。

このような考え方に違和感をいだく向きもあるでしょう。そして次のように反論したくなるかもしれません。私たちは普段、俳優のように振る舞っているわけではないもないし、観客として何かを見ているわけでもない。私たちは「ごく自然に」「自分らしく」暮らしているだけである、と。近年の演劇学は、まさにこの自然・自分らしさと思えるものに虚構の要素が巧みに入り込み、私たちを知らずして演劇的な世界に巻き込む状況を多角度から探究することで、人間観や世界観を根底から問い直しています。この状況は、見る・聞くなどの知覚行為から、振る舞いや行動、語りなどの能動行為にいたるコミュニケーション全般に当てはまります。

「見る」行為を例にして、この状況について説明してみましょう。私たちが何かを見るとき、その視線はすでに特定のイメージや枠組に条件づけられています。何かを見ようとする行為は、自分の意思に先んずる何かに規定されうるのです。この何かは、ヨーロッパの場合、劇場やメディア技術の発展とその効果にあると言われています。近代に入りヨーロッパ市民が定期的に観劇を行うようになると、遠近法と枠組を踏まえた奥行きのある舞台が多くの劇場に据えられました。この舞台設定は、観客が舞台上の人物を自分の座席から十分に観察することを可能にしましたが、同時にそれは、個々人が世界を自分本位で見て考えるという個人の主体性を促進したと指摘されています。近代人の主体的な受容行為と思考は、枠組や遠近法に基づく演劇的な装置に導かれるようにして発達したのです。

このような作用は現代のメディア社会にも見受けられます。もし私たちがインターネットを通じて多くの情報を得ようとすればするほど、自分の世界観がかえって狭くなる傾向があるとしたら、それは、あらかじめコンピューターやスマートフォンの枠組に収まる映像や情報を私たちが知覚するからかもしれません。この枠組は演劇的な装置の現代版と言えるでしょう。端末があればいつでもどこでも映像を見られる「ユビキタス」はいわば「可動式劇場」であり、私一人だけを相手にしても配信される映像世界は「おひとりさま劇場」と言えます。このようなメディア・テクノロジーの演劇的な枠組は、知らずして私たちの判断を独りよがりにさせる危険性をはらんでいます。

見えない演劇的な作用は、私たちの日頃の振る舞いや語りなどのコミュニケーションに広く及んでいます。この作用を広く深く探るにも演劇(学)は有益です。優れた舞台作品は、この見えない作用を反映して創られることが多いからです。演劇は虚構世界を観客に示すことで、日常に潜む演劇的なものの可能性・問題・限界を多角度から反映し、それらを観客に経験・省察させようとします。大学院の授業では、そのような舞台作品の分析を通じて、演劇学ならではの人間/世界の探究を行っています。この探究には演劇学の知識だけでなく、哲学・歴史学・文学・芸術学・メディア学・政治学などの新しい成果を活かす必要があります。世界が舞台であるならば、演劇学は多くの学問分野から成る総合学問と言えるでしょう。

(2016/11/30)

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