ドイツ語圏を中心とする近代の庭園芸術を研究しています。ひとたび国を問わず、一九世紀後半から二〇世紀前半にかけての時代を生きた西洋の近代芸術家の多彩な営みへと目を向けると、画家、彫刻家、建築家、工芸家を問わず、彼らの実に多くが好んで庭づくりに精を出し、中には専門的な知識をもって植物を育てている者も少なくないことに驚かされます。本格的な温室管理まで手がけた芸術家もいるほどです。こうした状況が、けっして単なる手遊びのガーデニング趣味などではなく、むしろ近代的な造形芸術制作そのもののあり方に対するきわめて本質的な関心と実は不可分であると考えるところから、今の私の研究は出発しています。
絵画や彫刻などの造形芸術は空間の芸術です。その意味で庭園芸術も空間的な造形でありながら、同時に、そこでは生命的な植物が育ち、枯れ、水が流れ、鳥が囀り、風が吹きわたることで、それは時間的な特性も強く帯び、まさに「空間―時間的空間形成」を問いかけてやみません。多くの近代芸術家は、造形芸術の、とりわけ制作論の水準において、この空間―時間の統合的な位相に対してきわめて自覚的でした。しかも彼らは、そうした統合の位相を生き生きと浮かび上がらせるのが、庭園的空間を心身で感受する人間の感性的な働きにほかならないことにも敏感で、だからこそ熱心に、自らの心身をもって自然的環境造形としての庭園づくりに取り組んだと考えられます。
一九世紀に誕生する美術史学の学問体系においては、庭園芸術は建築の下位に位置づけられ、いわばその「添景」として、不動の建築を分析するための方法に準じて検討される伝統が定着してきました。私は、庭園をそうした不動の「添景」として研究するのではなく、むしろその特性たる動態性において捉えたいと考えています。この関心に基づき具体的な研究対象としているのが、一九世紀後半以降、伝統的な歴史主義を否定して、生命的な植物の存在を重視することで自然らしさを追究した改革庭園です。そこでの本質的な特性を把握するためには植栽植物の理解が不可欠ですから、ドイツの園芸学者や庭園史家、庭園保存の専門家らとの学術的な交流を積み重ねています。そして、そのような庭園芸術をその最重要な本質である空間―時間の統合的な位相において解釈するための新たな研究方法論として、一九世紀末の近代芸術学に連なる庭園芸術学の可能性を拓くことが目標です。
(2020/12/21)