• ホーム
  • 研究
  • 研究紹介

研究紹介神を敬うとはどういうことなのか史学専攻 日本史学分野浅見雅一2020/12/21

私が専門としているのはキリシタン史です。フランシスコ・ザビエルの所属するイエズス会というカトリック修道会の前近代の布教方法をおもに研究しています。

イエズス会は、その布教方針において「適応」(accomodatio)という概念を伝統的に重視しています。適応には、二つの方向性があります。ひとつは、宣教師が布教地における文化的、社会的諸要素に自らを適応させることです。布教地の言語を習得することもこれに含まれます。第二は、キリスト教をいかなるものとして説くかということです。これにはさらに二つの方法があります。ひとつは、キリスト教の持つ諸要素を選択的に説くことです。教義すべてを説くのではなく、当面は一部を説くことを控えることも含まれます。もうひとつは、キリスト教の持つ諸要素のうち、教義的に変形可能なものを変形させることです。

ザビエル城(スペイン)

イエズス会は新たな布教地においてキリスト教の神を説いていくわけですが、私が関心を持っているのは、東アジアにおいて、イエズス会が現地の宗教や信仰との間で、キリスト教の神をどのように説いていったのかということです。キリスト教の論理からすれば、日本の宗教や信仰は偶像崇拝になり、本来容認できないものです。インドや東南アジアにおいてはヨーロッパの原則が適用されますが、日本ではそれが緩和されます。それは具体的には法の適用を「留保する」形を取ります。こうして、日本人キリシタンが偶像崇拝に関与することを条件付きで認めているのです。キリスト教の神を敬うことは日本における偶像崇拝をどこまで容認できるかという議論に帰着します。ザビエルの母方の大叔父にあたるマルティン・デ・アスピルクエタの『聴罪司祭と悔悛者の手引書』は、ポルトガル語版の初版がコインブラから一五四九年に出版されてから版を重ねており、悔悛の秘蹟に使うための良心問題の手引書として使われていきます。そこには、十戒を基軸として倫理の問題が個別に取り上げられています。キリスト教の神に関する倫理は十戒に述べられていることです。日本布教においても同書は利用されていますが、日本の問題は往々にしてそこから逸脱していますので、そうした問題が日本独自の問題として改めて議論されています。

発見の記念碑(ポルトガル・リスボン)

ところが、もうひとつ日本以上に面倒な布教地が出現します。それが中国です。イエズス会は、仏教や神道を日本における既存の宗教と認識していました。中国にも仏教は確かに存在しますが、それ以上に問題となったのは儒教をどのように理解するかということでした。つまり、儒教に対する「適応」をどうするかが議論されたのです。儒教には祖先崇拝を体系化した側面があります。それだけでなく、知識人が深く関わり、中国の文化的、社会的根幹をなす儒教を否定してしまったのでは中国布教は成立しません。日本の問題の延長線上にあるのが中国の典礼問題なのです。このように、インド、日本、中国と、キリスト教の神を敬うことの問題をひとつの線上にあるものとして捉えることを試みています。

(2020/12/21)

慶應義塾大学 大学院文学研究科

文学研究科について

  • 文学研究科委員長のメッセージ
  • 3つのポリシー
  • 学位
  • 進路・留学

入学案内

専攻・分野・コース

哲学・倫理学専攻

  • 哲学分野
  • 倫理学分野

美学美術史学専攻

  • 美学美術史分野
  • アート・マネジメント分野

史学専攻

  • 日本史学分野
  • 東洋史学分野
  • 西洋史学分野
  • 民族学考古学分野

国文学専攻

  • 国文学分野
  • 日本語教育学分野

中国文学専攻

英米文学専攻

独文学専攻

仏文学専攻

図書館・情報学専攻

  • 図書館・情報学分野
  • 情報資源管理分野

西洋中世研究コース

研究

  • 教員の研究紹介
  • 大学院生の研究紹介
  • 博士論文
  • 関連学会
  • 科研費採択課題一覧

更新情報

  • ニュース
  • イベント
  • 慶應義塾大学文学部外部サイトへリンク
  • 大学院社会学研究科外部サイトへリンク
慶應義塾 Keio University慶應義塾 Keio University
  • 在学生外部サイトへリンク
  • 卒業生外部サイトへリンク
  • 寄付外部サイトへリンク
  • アクセス外部サイトへリンク
  • このサイトについて
  • 個人情報の取り扱い外部サイトへリンク
  • お問い合わせ

Copyright © Keio University. All rights reserved.

↑Page Top
慶應義塾大学大学院文学研究科 Keio University Graduate School of Letters

慶應義塾大学大学院文学研究科

  • 検索
  • アクセス
  • English
  • 文学研究科についてAbout Us
    ↓
    • 文学研究科委員長のメッセージ

    • 3つのポリシー

    • 学位

    • 進路・留学

  • 入学案内Admissions
  • 専攻・分野・コースAcademics
    ↓

    哲学・倫理学専攻

    • 哲学分野
    • 倫理学分野

    美学美術史学専攻

    • 美学美術史分野
    • アート・マネジメント分野

    史学専攻

    • 日本史学分野
    • 東洋史学分野
    • 西洋史学分野
    • 民族学考古学分野

    国文学専攻

    • 国文学分野
    • 日本語教育学分野
    • 中国文学専攻
    • 英米文学専攻
    • 独文学専攻
    • 仏文学専攻

    図書館・情報学専攻

    • 図書館・情報学分野
    • 情報資源管理分野
    • 西洋中世研究コース
  • 研究Research
    ↓
    • 教員の研究紹介

    • 大学院生の研究紹介

    • 博士論文

    • 関連学会

    • 科研費採択課題一覧

  • ニュース・イベントNews & Events

  • 在学生外部サイトへリンク
  • 卒業生外部サイトへリンク
  • 寄付外部サイトへリンク
慶応義塾 Keio University慶応義塾 Keio University
WEB入学説明会WEB入学説明会
修士課程「西洋中世研究コース」修士課程「西洋中世研究コース」