太平洋の島世界をフィールドに、クック、ツバル、マーシャル、パラオ、八重山の島々で長らく発掘調査を行ってきました。たどり着いた境地は「島景観は出会いと絡み合いの歴史的産物」ということ。その思いを胸にいま再び、クック諸島プカプカ環礁で地球科学や文化人類学の共同研究者、そして島の若者たちとともに、島景観と気象災害の関係史を探求しています。たとえば熱帯サイクロンは、サンゴ礁の低平な島に甚大な被害をもたらしますが、復興の過程をひも解くと、天水田が掘り直され、救援物資として持ち込まれたタロイモが新たな品種として根付き、一緒に入ってきた雑草キダチキンバイがプカプカ特産の箒の素材として活用されていることに気付きます。破壊と再生のなかで島景観は動態的に変わっていくのです。
海で囲われた陸地なので、島ではさまざまな研究者とよく出会います。勇気を出せば、異なる分野の知見がすぐそばで手に入ります。振り返えると、島はいつも出会いと絡み合いのフィールドでした。しかし、これは個人的な経験にとどまりません。人間も含めて陸棲の生物は海洋のただ中で途中下車できないから、海原を渡るものたちは生命ある限り島の陸地を目指すことになります。人間を含めた生き物、そしてさまざまなモノやコトが島に寄り集まり、出会いと絡み合が島景観を時どきに作り変えてきたし、これからも作り変えていくはずです。
そう考えると私たちの研究や調査もまた、島景観に影響を及ぼすある種の営為と言えます。特に考古学の調査は島に穴を掘る物理的な行為ですし、掘りあげたトレンチは人々によってゴミ穴やバナナの植栽に転用されることがあります。発掘地点や調査成果が、次に訪れたときには島の歴史語りに組み込まれていることも経験しました。島景観の改変や人々の歴史実践に自分自身もかかわっていることを強く感じながら、蒸し風呂のようなトレンチのなかでこれからも研究を続けていきます。
(2020/04/01)