概要:
哲学・思想史上の「西洋近代」はイマニュエル・カントによってその基盤が整えられ、ドイツ観念論のG.W.F.ヘーゲルによってその絶頂に達したと見ることができる。「意識」による「経験」はいかにして可能か、また、それはいかなる事態なのかをめぐるカントの徹底した思考を継承し、さらに展開したヘーゲルは、私たちの現実を「精神」の「現象」する一連の過程として捉えるにいたる。このヘーゲルと同年生まれのルートヴィッヒ・ファン・ベートーヴェンは、同時期の西洋音楽を〈音による思考〉として展開することで、思考の形態に対しても音楽表現の可能性に対しても全く新たな次元を切り拓くことになった。
この両者を主たる参照軸として、関連するさまざまな哲学者・思想家と作曲家を毎回異なったテーマごとに取り上げ、音楽作品を取り巻く哲学・思想を中心とする文化的背景と個別の作品そのものの内実に哲学者と演奏者がそれぞれの観点からアプローチを試みる。この試みを通じて、「近代」とはいかなる時代だったのか、そこから現代の私たちが受け継ぐべきものは何かをあらためて考えることを最終的な目的とする。全十回から成る連続講演では「パッションと理性」「悲哀の力」「音楽の哲学」「生と死の揺らぎ」などのテーマが取り上げられるが、その第七回となる今回は「夢は何処へ」というタイトルの下で以下の四つの作品を取り上げる。
ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第27番 Op.90
ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第13番 Op.27-1
ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第14番「月光」 Op.27-2
シューベルト ピアノ・ソナタ第18番「幻想」 D894 Op.78