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研究紹介カント、スコラ主義、メタ倫理学哲学・倫理学専攻 倫理学分野ヴォルフガング・エアトル2019/04/01

私が取り組んでいる研究課題は三つあります。最初の二つはカント哲学に関連し、三つ目はメタ倫理学の現況に位置づけられるものです。

一つ目はカントの哲学理論の領域です。私はカントの先験的観念論を、彼が現象と物自体とを区別した点から理解しようと努めています。カントはこの立場ゆえに批判されてきましたが、この区分は実情に即していると私は考えます。近年のカント研究では、この区分が二つの異なる属性に関連すると指摘されています。現象はあるタイプの属性から構成され、物自体は別のタイプの属性から構成されるのです。ここで問うべきことは、これらの属性が主体に依存しているか否か、また、これらを分類する際にどのような方法が用いられているか、という問いです。私としては、このような分類の企図は、認識主体の相違という点から説明されるべきだと考えます。カントによれば、私たち人間が事物を理解できるのは、事物が必然的に私たちと相互行為的に関わるからと考えられています。たとえば知覚の次元などです。他方、この限定にとらわれない認識主体の可能性があります。ここからが私の主要な見解となりますが、中世哲学の伝統であるスコラ派が展開した神的認識という巧みな論を掘り下げて研究することで、カントを従来と異なる点から理解できる可能性があります。この方法は、過去の哲学と訣別した哲学者としてのカント像を超えてはいますが、これによってカントをとらえ直すことができるのです。

二つ目はカントの道徳論です。私は広く知られる定言命令の役割をより適切に評価することを目指しています。定言命令は「あなたの意志の格率が、同時に普遍的な法の原理となるようにつねに行為せよ」と言っています。これが何を言わんとしているかは明確ではないのですが、それは、いかなる行為者であれ、その理性や意志が妥当な道徳規範を「正当化する」と主張しているのだ、というのが多くの識者の理解するところです。私の見解はこれと異なります。カントは定言命令によってもう少し控えめなことを目指していたと考えます。私たちはあらゆる規範に対して批判的な態度をとるべきであり、定言命令は警告の原理のようなものと考えるべきでしょう。この意味での定言命令に従順であれば、私たちは道徳的に間違った行為をすることはないのだと確信できることになります。周知のように、カントが定言命令を「引き出した」のは、良き意志を持つことは何を意味するのかという問いに関する彼の解釈からでした。ここでふたたびスコラ哲学が有益となります。スコラ哲学の主流な考えによれば、良き意志とは正しい理性に従う意志のことです。ここで言う理性は、行為を導くという役割を与えられています。私たちは何かをしようとする前に、自分が行うことが正しいかどうか考えるでしょう。また、その正しさには多くの側面があるとも考えるでしょう。そしてそれらのうちの一つが私たちの行為の動機です。道徳的に正しい行為をおこなうだけでは不十分で、正しい動機から何かをしなくてはならないのです。カントにとって、正しい動機とは法の尊重であり、ここで重要になる法とは警告の原理なのです。

第三の研究課題は、道徳と真理の関係に関連します。ある状況で誰かがある人を助けなければいけないと考えたとしましょう。この場合の真理とは、その人が他人を助ける義務を追っていることであると考えるのが妥当かもしれません。すると次の問いが浮かびます。そのようなが「真である」とは何を意味するのでしょうか?その言説は「道徳的事実」ゆえに「真である」のでしょうか?この問いはすぐに根本的な問題につながります。すなわち、真理については、ある唯一の概念があらゆる学問に通用するのでしょうか?それとも、真理は領域ごとに固有であると考えるべきなのでしょうか?もしそうであれば、真理は弱まることになるのでしょうか?私は弱まらないと考える立場ですが、この立場を的確に論証できるよう模索しています。

(2019/04/01)

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