講演会の概要:
カリフォルニア大学バークレー校人類学部のデイナ
・フナハシ先生は、フィンランドのストレス管理のテクノロジーについて人類学的研究を行って
こられました。今回のご講演ではタイにおける建設現場でカンボジアからの移民労働者に対して、
メタンフェタミンが使用されている状況についてご報告いただきます。
この覚醒剤は眠気を覚まし、疲れを感じさせなくさせる薬として20世紀日本でも「ヒロポン」
として知られ、戦時中の兵士の士気高揚のために用いられました。
戦後復興期には、芸能界や文壇のみならず、安価な労働力を確保し、かつ能率向上を目指す薬物
として爆発的流行を見せます。ただし日本では、その依存性・有害性が問題となり、厚生省が
劇薬に指定する中で、社会現象としての流行は収束していったという歴史があります。
現在でも、仕事の効率を上げる、創造性を高めるといった目的のための覚醒剤使用は世界の各地
でみられ、特に21世紀の転換期からは様々な向精神薬が本来の(病的症状を抑えるという)使用目的
を超えで幅広い年齢層・階層に用いられていることを考えると、タイの状況は決して特殊な事柄
ではないでしょう。薬物をめぐるこのようなグローバルな状況を踏まえ、フナハシ先生には労働と
グローバルヘルスに関するこれまでのご研究をご紹介いただき、労働の限界を乗り越えるために
生み出された化学物質と人間の相互作用について、人類学的考察を行っていただきます。
本講演会は、科研費 基盤研究(C) 19K01205の助成を受けています。