日本における美術の歴史は、世界の美術史という巨視的枠組みからみると、東アジア美術の範疇でとらえられるべきものです。しかしながら歴史的経緯もあり、どうしても隣国中国の大きな存在を無視しえず、ために欧米の美術書では日本美術は中国文化圏の下に位置付けられる小さな扱い、という不遇をかこっています。確かにそうした事実は否めないものの、では、日本美術が最も輝いた時期、すなわち、世界規模の美術史のなかでも他とは異なる個性的な光を放った時期は、あるのでしょうか。この問いに対しては、いくつかの異なる視点を用意しての解答が期待されますが、答えの一つに、江戸時代をあげてよいと感じています。つまり、海外との積極的な交渉を制限された二世紀以上にわたる鎖国時代に、内向きに発酵した文化事象のひとつとして、江戸時代の美術には確かに、オリジナリティに富んだ造形が認められるというわけです。