講演要旨
今回の報告では、民俗学における、他者の<声>に耳を傾けるという方法/態度について、四半世紀前から人類学周辺で蓄積されてきたフィールドワーク論を横目でにらみつつ、言文一致等の日本のことばの近代化におけることばの実践としての「聴き耳」の試行錯誤(日本の「表現の危機」)という文脈で検討する。
柳田國男は、明治三十年代に自然主義の文学者たちと深い交流を持った時期から、一貫して「文体」に悩み続けていた。特に大正期以降の「旅の学」を構想する過程においては、他者の暮らしに触れ、その<声>に耳を傾け、そして感じ思考したことを、どのような文体で叙述するかが、柳田にとって切実な問題であったと考えられる。
日本のことばの近代における柳田の試行錯誤のなかに、日本の民俗学の揺籃と歴史的展開の筋道を見出してみたい。