講演要旨
近年、「誰がアイヌであるか」という問題をめぐって、出自/血統にもとづく帰属集団の固定化が見られる一方で、それとは異なる自/他承認のあり方もまた、「血」、「系譜」、「地域」、「仲間」といった区別の基準が複雑に錯綜する地域社会の内に秘められているのではないだろうか。本講演は、現代のアイヌ民族の文化継承をめぐる動きを詳細に検討することで、生活/活動の「場」を共有する直接的な人と人とのつながりに基づく共同性について考察するとともに、民族の境界を越えるトランスエスニックなつながりによる共生の可能性を展望する。
講演者プロフィール
成城大学民俗学研究所研究員。成城大学大学院文学研究科日本常民文化専攻修了。博士(文学)。専門は、文化人類学。主な業績に『『首都圏に生きるアイヌ民族―「対話」の地平から 』草風館(2007年)、「近代日本人類学とアイヌ/コロボックル人種表象―坪井朱五郎の人種概念の検討から」山路勝彦編『日本の人類学:植民地主義、異文化研究、学術調査の歴史』211-252頁 関西学院大学出版会(2011年)、首都圏におけるアイヌ文化伝承活動と移動をめぐる一考察 : 先住民族の移ろい動く日常」 (人の移動とその動態に関する民俗学的研究)『国立歴史民俗博物館研究報告』199:87-113(2015年)など。